KOHH『Worst』

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還っていくアルバム

 

 

 東京都北区王子出身のラッパーによる、1年2ヶ月ぶり6枚目のフルアルバム。

 キャンディーズの普通の女の子宣言をアルバム1枚かけてやっているような作品だ。2010年代のラップシーンにおいてひとつの象徴になってしまったKOHHから人間・千葉雄喜に還っていく、その軌跡がここにある。このアルバムを「普通の人間」たらしめている点は数多く存在するが、何より目立つのは恋人や祖母など、身近な個人への愛情を歌う曲の多さ。聴き手に広くメッセージを発していた前作『Untitled』とは対照的だ。また本作は喜びと悲しみ、本能と理性、幸せと不幸せといった両極端なモチーフが並ぶのも特徴。パートナーがいるにも関わらず惹かれ合う姿を描いたM6〜M7や〈幸せすぎ〉を懺悔するM10は本作を端的に表している。
 製作時期の異なる曲をまとめたという構成やアコギの弾き語り曲が唐突に挟まれるディティール含め、無軌道ですらある本作。そこから見出せるのは多面体としての一個人でしかない。あまりにパーソナルかつカラッとした手触りのため、本作はコロナ禍など全く意に介さない。ラップアルバムとしての到達点ではないが、ある男のドキュメントとしては最高傑作。これが終わりで、きっと始まり。